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実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

ギリシャ神殿と多柱室の共通点

ガウディは
科学は、経験によって初歩的なものを教えてくれる。
科学は原理であり、芸術は例(過去の作品)によって学ぶ

と言っている。
ベルゴスとの会話で残したこの言葉から以下のような考察もできる。
たとえばデザインに歴史を利用すると新鮮さを醸し出し、建築ではミステリアスな空間を生み出すことさえある。 構造体やオーダーでは更に創作性を啓発してくれる。
それは忘れかけていた現代建築をリバイバルさせることで、新たなイメージを与えることさえあるからだ。
ガウディの場合は柱のスタイルでヘレニズム様式や空間構成の一つである遠近法を取り入れ、さらに神話を組み込む事で新たな表現にしている。
そうすることで謎を生み出し、新たな要素として空間が変貌する。
私たちは忘れることを知っている。しかも排除するかのように忘れてしまう事さえある。
するとその忘れ去られた過去が蘇生したとき、新たなイメージとして登場する。
改めてグエル公園をみると、ギリシャ時代の遠近法が多柱室に利用され、しかも柱の腰壁タイルの高さがそれぞれ異なるのはミステリーに思えた。
そのミステリーが建築機能と生活環境、視覚的問題に芸術性なども含めた効果を与えている事に気がつく。

再度整理する。
中央入口の階段室からこの多柱室に入ると、その腰壁の高さは全て均一に見える。
通常であれば腰壁の高さは全て同じにするのは一般常識であり、施工上同じ特性をもった要素として機能的な違いがない限りは同じ寸法の詳細となる。
ところが同じ列柱を並べることで遠近法が強調される。この部分だけでもまるでパルテノン神殿と共通した視覚的効果となる。 それの実測から遠近法を利用して多柱室の内部構成を計画していることが確認できる。ところが柱の腰壁タイルの高さがそれぞれ異なるということが確認できることは既述しているが、中央階段室からこの多柱室に入るとその腰壁の高さは全て均一に見える。通常、腰壁は全て同じ高さにする。しかも同じ列柱が並ぶという事は遠近法が強調されることになる。よって手前の柱の腰壁の高さは奥の腰壁よりは高く見えるはずである。手前と奥の腰壁が同じ高さに見えるというのは非常に平面的にみえることとなり自然でもあるが、視覚的には不自然でもある。
実際にこの多柱室に入ると、視覚に飛び込んでくる腰壁の高さが気になるほどでもないことがわかる。
ところが、山側の奥からこの多柱室を覗くと列柱の腰壁の高さは地中海の水平線と一致することから、多柱室の広さを強調しているようにも見える。
この腰壁による遠近法の調整はどんな意味を示すのだろうか。
一つは機能的に山側から海側へ床勾配をつけることによる水切りの機能。もう一つは多柱室の機能に合わせた視覚的な広さの調整によって、利用者の使いやすさを求めての事として考えられる。すると地中海に繋がるような大きな空間を感じさせる細工をすることで、より開放的な多柱室という感覚を体験させてくれる。
そして多柱室の外回りの柱は全て内部に傾いている事から、まさにギリシャ神殿と同じような手法で柱のあり方を設定している。
この場合は多柱室全体が外回りの内側に傾いた柱にすることで、視覚的または物理的な安定感を持たせる事になっていることは一目瞭然となる。
アクロポリスのパルテノン神殿でも同じように傾いているのは知られている。

じつはこれもその視覚的、また物理的安定を求めての事になる。
     
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