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建築家トップ > バルセロナ便り > 第191回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

残り13年で完成させるには無理がある

ガウディがしみじみとホワン・ベルゴスに
「人生において、<<生活意欲>>という言葉は悦びよりもつらい事の方が多い」
と語っている姿には、実感がこもっている気がする。

昨年のニュースでは、建築主任ジョルディ・ボネットや其の後を継いだ新しい主任建築家ジョルディ・ファウリもまたガウディが亡くなって100年後の2026年にはサグラダ・ファミリア教会は完成すると宣言している。恐ろしい事を彼等は平気で宣言しているのだ。
何がおそろしいことかというと、この教会を完成させるには建物の他に三カ所の門の前には広場が設置されなければならない。ところが肝心の中央門となる栄光の門では、2ブロックの建物群を買収・撤去をしなくてはならない。現在でも新しい建物もあり、
住民達も生活している。いくら何でも残り13年で完成させるというのは強引すぎる。
宗教建築は個人の建築である。立ち退きを迫られる可能性のある人達の気持ちをどのように処理するのだろうか。損害賠償だけではすまないはずだ。教会の所有者がどれほどの権力があるのか解らないが、現在の広場に計画されているところのアパートやテナント、事務所などを構えている人達を立ち退きさせるということになると少なくてもその地区には2,000人以上の住人がいる。とすれば彼等の気持ちを無視して撤去できるのだろうかという社会的な問題を抱えている。住民全員がサグラダ・ファミリア教会のファンや信者なら別かもしれないが、それはありえない。だからサグラダ・ファミリア教会のために献身性をもって立ち退きをしてくれる人達がどれだけいるかという問題と、その地区の建物を解体して整地し広場にするだけでも残り13年の作業では難しい。しかも経済危機として現在騒がれているこの世知辛い世の中で、そんな問題を考える事すら恐ろしい事である。
時間次第でいつかはそれらの住宅やテナントもサグラダ・ファミリア教会によって徐々に買収されて広場がつくられるようになるだろうが、これから13年後にそれが実施されるというのはあまりに無謀ではないだろうかとさえ思える。
また、サグラダ・ファミリア教会の塔も10本建設しなくてはならない。詳細の仕上げも残っている。それにはまだとてつもない時間が費やされるはずだ。ガウディは43年かけて誕生の門をほぼ完成させている。その後フランシスコパウルキンターナからはじまりプーチボアーダ、ルイス・ボネット、カルドネール、ジョルディ・ボネットという建築家達が継続してきて、更に受難の門をほぼ完成させた。つまり合計8本の鐘楼を160年かけて建ち上げただけである。
これから更に聖母マリア、福音者達マルコ、ルカス、ホワン、マテオ、キリストの塔、残りの12使徒達アンドレス、ペドロ、パブロ、大サンティアゴの名のついた鐘楼が建てられる。

それらを全て無視して、コンピューター上のバーチャルな世界での完成予想であれば理解できるが、実際の建築となると全く別世界である。まさかバーチャルの世界でできているということから現実になると錯覚をしているのではないだろうか。
一日中パソコンばかりいじくっていると、現実とバーチャルの境が見えなくなるような、ある種の中毒症状をおこしているのではないだろうかとさえ思えてしまう。

計算値と現実での違いは大きい。特に建物の場合は昔から納まりにはクリアランスをとって嵌め込んでいくのは常識である。
     
田中裕也氏プロフィール
 
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