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建築家トップ > バルセロナ便り > 第232回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

装飾を削除し、物理機能を持つ造形に仕立てる

ガウディの建築全体で注目すべきは構造の他に建材である。
その建材が廃材からはじまり、木材である黒檀、鼈甲(べっこう)、石では玄武岩や大理石まで利用している。
しかしどの作品でもこれらの高級素材を利用しているわけではない。ところがクライアントに関わらずある建材を一貫して利用しているということが見えて来た。
つまりスペインにおける伝統的な建材を、更に彫塑性を加えて芸術的な付加価値をつけながら建築機能とし、しかもガウディの地域の物語性が建築に反映される。
たとえばカサ・ミラの階段室をみると、躯体は煉瓦をベースに二重構造として破砕タイルによる仕上げとなっている。ところがカタルニア地方ではトレンカディスという手法を取り入れることで、セラミック以外の素材として石やガラス等も組み合わせ、しかも廃材を利用していることがわかる。
タイルの中でも釉薬タイルは薄いガラスの膜で防水性を高めている為に、水に関わる部分に利用されるが、さらにそれよりも厚いガラスや大理石なども防水性と耐久性を考慮して水回りの仕上げに利用されている。
しかも煉瓦造による躯体は放物曲線回転体になっている。それだけでも流線型でありピストルの玉のような形をベースとしているのである。
それらを外側からみると彫刻的に見えたりする。しかもこの階段室はただの階段室ではなく、換気塔にもなっている。これによって内部の空気を引き出す役目をしているのである。
この壁面の幾何学模様は波を打っていて、一見、飾りかなと思ってしまう。
ところがこれらの階段や煙突の形が円錐状、しかも放物曲線状になっていることから、風が当たるとその面を滑るようにして捻れや曲面などによって上昇気流を作り出し、通気や換気を促すという機能となる。
つまり自然の強制換気ができるようになっている事が理解できる。
これについては追跡実験をする必要があるが、私がこのカサ・ミラの実測調査をしている時に最上階の居住者にこのアパートの住み心地について尋ねた。すると写真家であった居住者は「風のある日にはこれらの通気口や煙突が音を出す」と言うのである。
とすればそれぞれに違った音色を出すはずである。
しかもこれらの通気口を風が通り過ぎて音をならすわけであるから当然そこで音の流動が生じていることは明らかである。
空気は階段室は煙突の形に従って舐めるようして螺旋状に上昇するわけだから、上昇気流も同時に生じてその速度も変わるという事になる。
これらも今後の科学実験で裏付けをとらなくてはならないテーマではある。
ガウディがそこまで物理的な現象を建築に応用しているということになると、さらにガウディ建築の面白さが増してくる。
今までは歴史的様式やアート的な処理だけの視点で評価され、科学的な演出もされてきた。コロニア・グエル教会での10年にわたる物理的な構造実験をし、さらにその延長上にこれら成熟期の作品が現れるのであれば、ここでもそれらに関連するような物理的要因をベースにした応用性も含まれている事になる。

つまりガウディによる装飾の削除は、それに替わる手法として自然物理を取り入れながら建築機能に演出されることをこのカサ・ミラで紹介しているのではないだろうかと思える。
     
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