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建築家トップ > バルセロナ便り > 第237回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

歴史的遺産は作家の意図を継承しなければ意味が無い

ミステリーといえば、モンセラー山サンタ・クエバ(聖なる洞窟)のキリストの第一玄儀という1900-1916年に作られたものを想い出す。

ミステリーというより奇蹟を演出した場である。キリストは磔刑による死から棺に入れられ洞窟に運ばれる。そして蓋が開かれキリストが復活するシーンを彫刻で表現している。この作品は、ヌエストラ・ドーナ・デ・モンセラー精神会(Lliga espiritual de Nostra Dona de Montserrat)の代表者であったリカルド・ペルマニェー氏がモンセラー修道院長デアスにその提案をして、1900年11月12日に依頼されたとガウディはセサール・マリティネールに話しをしている。その後ヌエストラ・ドーナ・デ・モンセラー精神会は、資金力のあったホワン・モン・ボスコに委託し、1903年4月27日に10,000ペセターが集められて計画が実施となる。
ガウディが計画した彫刻は、当時のカタルニア人彫刻家リモーナによる作品としてキリスト、天使そして棺桶が作られ、他の三人のマリア達は、ディオニシオ・レナルドによってリモーナの指導のもとに作られたとされている。
鉄柵はヘロニモ・マルトレールの計画でバジャリン工房が設置し、しかも「慈悲によるモンセラー…」というカタルニア語による記銘文も同じ工房で作られ1916年に設置されたとされている。復活シーンのキリスト像の移動と鍛鉄柵、プレートを含めてパジャリン工房が同年に変更したと洞察できる。
問題はどうしてキリストの位置を変える必要があったのかと言う事である。

ガウディの考案した洞窟上部手前に中空に浮いたキリスト復活シーンでとてもインパクトはあった。しかし後に、洞窟の横の岩場に貼付けたような位置になっていることで、復活するシーンを描いているはずの彫刻のインパクトが薄くなっている。

このようにしてガウディではない別の人が作家の承諾も得ずに勝手に構成を変えてしまうと、作家の意図が変わってしまうという一例である。
モニュメントや建物は、時代に応じて他の担当者がオリジナルの意図も継承せずに手を加えるとおかしくなるのである。

建築は時代に応じて利用される事で本来の機能を維持する事になる。
ところが、その建築もモニュメントと同じように作家性が強く見られる場合は、よほど注意しないと意匠的な問題を生じる。
歴史的建造物の重要さは、その時代にしかありえないものが表現されていたりする。素材、手法そしてスタイルであったりする。つまりそれらの継承と維持は歴史的視点からすれば消滅していく人類の遺産を少しでも残すことになる。つまり変わり続ける時代の文化・文明の証であり、経済性云々で処理されるようなレベルの話しではない。考古学の世界でも遺跡を発掘される度に国の遺産として価値が生まれ、管轄の国の博物館で管理される。これも失われた遺産を少しでも次世代に残そうとする活動なのである。
これら過去の遺産を残す意味は、私達の過去や先祖を知る事で自分の存在を知ることにもなる。
歴史的な遺産というのは破壊されると二度と同じものは作ることができない。つまりコピーができるようなものではないということを人々はしっかり自覚するべきだと思う。
歴史を振り返ってその模倣をする為に残すのではなく、それを乗り越える為に必要な素材であり遺産であるということも事実である。

階段なくして二階には上がれないのと同じである。
     
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