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建築家トップ > バルセロナ便り > 第184回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

政治の混乱期に文化遺産の破壊も進んだ

この教会は完璧なゴシックとなる」とガウディが言い残している事を、教会の継承者、建築家プ−チ・ボアダが1929年の「サグラダ・ファミリア教会」に記している。この言葉には、理想を追求することで完成させようとする気持ちが込められている。
ガウディにとって、「完璧な」または「完成させた形」というのは何を意味するかと言うと、コロニア・グエル教会の為に10年間かけて作ったあの逆さ吊り構造実験模型である。その成果をサグラダ・ファミリア教会に共有させる事で、完璧なゴシック建築となる事を促している。
19世紀末というとフランスの芸術運動アールヌーボーである。イタリアではリベルティー、オーストリアではセッゼッション、ドイツではユングスティル、イギリスではアーツアンドクラフト、スペインではモデルニズム、日本では分離派という言葉が出回っていた時代である。
18世紀末の産業革命を始まりとして、100年後の19世紀末にして華やかな芸術運動となる。日本ではそのころ松室重光による京都ハリスト正教会(1901年)や辰野金吾による日本銀行京都支店(1906年)が建設されていた時代である。
ガウディは密かに、新たなゴシック建築を求めて構造の改革を成し遂げていた頃である。彼の職人気質からすれば、500年以上も続いた歴史的様式の改革というより、改善を計っていたという見方の方が自然だろう。しかもいまだにサグラダ・ファミリア教会の形は彫刻群がなくても斬新な形である。
その教会を造るにあたって「この建築は人々の献身なしでは完成しない」と言い残している。
この献身という言葉は、分野に関係なく大切な言葉である。
宗教的な言葉に思えるが倫理の世界で使われる言葉でもある。
つまり宗教の前に、人間本来の生活の中での生き方に関わる言葉。それをガウディは協力者達に利用する。勿論彼自らも実行していたことはよく知られている。倫理と宗教は同一視される人もいるかもしれないがそうではない。もともとその大昔に人々が集落を作るようになって地域の秩序を維持する為の方法として、アイドルを作りそれをベースに地域の秩序を維持させていた事は古今東西変わっていないところである。
さらに時代が進むに連れ、人間社会も複雑化し政治社会が生まれて現在に至る。
そんな社会の中でガウディの時代は、封建社会から資本主義社会に変わりつつある時期であった。しかも政治、教会、労働者の三者による衝突が始まる時期でもある。労働者による組織化と教育近代化と、さらにその活性化をするかのように左翼的思想をベースにした党が生まれ、社会が更に混乱しはじめる。どの世界にもある極派である。その中でもアナーキスト達はテロ的な活動に走りはじめ、資本家達の社交場における爆破事件や宗教関係の放火など大切な人類の遺産を傷つけはじめる。

人々が時間をかけて築いてきた遺産を、まるで廃棄物のように削除する人々の心はさぞ荒んでいるとしか思えない時期であった。政治社会の先頭に立つ人々の利益や都合により、暴力や戦争が人命や遺産を埃のように一掃する、しかも恐ろしい武器で社会を鎮圧してきた。
     
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