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建築家トップ > バルセロナ便り > 第286回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

ガウディ実測46年を振り返る

実家にいた頃は母親がよく日本史の細かな話を聞かせてくれたものである。しかも学校で習っていた歴史の内容よりははるかに細かく、話に出てくる登場人物の名前を覚えるのに苦労していた。それにしても蕎麦屋をしながら歴史の話ができる母親というのはそう見かけられるものではないと思っていた。母は歴史が好きだと言っていたが、そんな母親が蕎麦屋をしていたのが不思議でならなかった。仕事と趣味は共通しないのだということをこの時に気づかされた。

そこで歴史の意義は何か。
学生時代にはこのような視点で考える前に、時代背景や名前を覚えるだけでも自分にはなじまないので、苦手だと思っていたこともあった。
ところがスペインにやってきて建築物やモニュメントを測るようになって、さらにデーターを分析する作業に入ることで、自然に歴史の中に溶け込むような姿勢で向き合っていることに気がつかされている。
しかも小学生時代から作図は面倒で、アートの世界が嫌いだと思っていたほどである。ところが今では体全体でその世界にすっぱり浸かっているという気がしている。改めてアートの世界が今も嫌いなのと自分に問いかけると意外にも、あれだけ嫌いだった自分がどこへ行ってしまったのだろうと思えるようになっている。そんな不思議な人生を体現しているのである。

そこで改めて人生を振り返る、そこで歴史の意義を考える。自分の世界でも理解できるように過去と現在を比較することで、その変化にとても興味を持てるようになる。そして、あの頃のあの時にこんな出来事があったことを想い出すことさえある。それは時と共に人生の変化と自分の存在を認識できる一瞬となる。

その良し悪しは別にしてもこれからの未来というと大げさになるが、明日でも良い。そのためにどうあるべきかという判断基準にもなり、具体的な定規にもなるとさえ思える。
幸いにして私は中学一年生の頃から毎日のように日記を書いていた。5月15日の母親の誕生日に、日記帳のプレゼントをした時に自分も日記を書こうと思い始めた。それ以来毎日のように日々の感想をメモする習慣が身についた。もう一つの目的はなぜか国語も嫌いであった。それをなんとかしなくてはいけないと思ってのことであった。私の書はポップダンスをするかのようにリズムカルに乱れている。しかし日付や天気、その頃の自分の思いを回顧するには素晴らしい記録となっている。1986年に執筆したガウディの実測図面集という私の処女作は、その日記帳の記録に基づいた日付が記されている。

私が個人研究としてガウディの世界を追いかけ始めて今年で46年目を迎える。
バルセロナ旧市街のモンタネール通り530番地にアトリエを構えて、今パソコンの前でこのブログを記している。あの手描きの文字からキーボードによる文字に代わっている。しかもバックミュージックは鳥や川の水の流れが入っているラジオ曲からの音を聞き流しならの作業である。
今は丁度10時25分。

7月7日土曜日。地元の人たちもこの時期、半分以上は夏休みに入って実家に戻る人たちも多く、バルセロナの街の住民たちは減っている時期でもある。人通りも行き交う車の騒音もまばらになり、クラクションの音さえも聞こえない静から通りに化している。
     
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